アイドル、カフェのマスター、プロゲーマー、いつの時代もやりたいことを仕事にしている人は憧れの対象です。本当にうらやましいと思います。ならば目指せと言われてしまいますが、それはできません。なぜなら、私にはやりたいことがないからです。働きたくないでござる。
残念ながら私は富豪ではないので働かなければ生きていけません。働きたくないにもかかわらず働かなければならないので、嫌で嫌で仕方がない労働の苦痛を緩和し、さらに楽しむための方法を考えてきました。
私の人生に大きな影響を与えた、プリンセスメーカーというゲームがあります。エヴァンゲリオンで有名なガイナックスが製作した世界初の育成シミュレーションゲームです。魔王を倒した勇者が孤児を養女にして立派に育て上げるという内容なのですが、私はこのゲームに向いていたようで、ほぼ初回プレイで隠しエンディングに到達しました。
Aというパラメーターを上げるとBが下がる、Bというパラメーターを上げるとCが下がる、Cは上がりにくいがAにもBにも影響を与えない。その条件で将来の最強を目指すならば、まずAを限界まで上げて、次にBを0の状態から限界まで上げて、最後にCを上げられるだけ上げれば良いのです。簡単でしょ。
しかし、現実でこれをしてしまうと、Aを上げている最中にはBにおいて社会不適合となり、Bを上げている最中にもCという欠陥があるという、苦難の人生となります。
知ったことか。私はロールプレイングゲームをするにも過剰なレベリングをしてからボスに挑む男です。今の困難も単調な作業も、未来への投資になるならばいくらでも受け入れます。
高校時代に鋭い友人がいて「柿沼君は将来のことばかり考えているからいつも楽しくないでしょ」と言われました。私を気遣っての言葉であり、本当に感謝しているし、それができる優しさと観察力を尊敬しており、その時はかけられた言葉に悩みました。しかし、その後、悟りました。今の悟りをもって当時に戻れるならば「そんなことはないよ、レベリングを楽しんでいるのだから」と答えて友人に安心してもらいます。
私がやりたいことはレベリングです。セルフ育成です。目標はありませんし、なさなければならぬ使命も背負っていないので、誰と比較するわけでもなく、昨日の自分よりも今日の自分、今日の自分よりも明日の自分の方が優れていれば、それで満足できます。つい最近まで意識せずにいたのですが、私は、学生時代はもとより、社会に出てからも、自分が成長できる場所にいるかどうかのみを考えて生きてきました。
意識できたのは30代後半に独立してからです。当時は生きることに精一杯ながらも、働きたくないので、できるだけやりたくない仕事を避けようと考えました。自分がやりたくない仕事とは何かを考えたときに、成長できない仕事だとわかりました。よほど儲かるならば成長できない仕事でも受けますが、成長できる仕事ならば、割が悪くとも喜んで受けます。働きたくはないでござるが、リアルでプリンセスメーカーができるならば楽しいでござる。
40を過ぎたころから、相変わらずレベリングに興じながらも、不自由なく暮らせる稼ぎを得られるようになってきました。強くなるに応じてより難度が高いダンジョンで鍛えるようになった結果です。
いつの間にか、私もプロゲーマーになれていました。