労働法における労働者、借地借家法における賃借人、下請法における下請事業者は、弱者として法的に保護されています。2024年11月から、フリーランス新法が施行されました。この法律では、人を一人も雇っていないならばフリーランスという定義で、フリーランス以外がフリーランスに業務を委託する際には下請法類似の規制を受けることになりました。例えば、アシスタントを雇用しているフリーのカメラマンが、自身の宣伝のためのWEBサイトの制作を、社長一人で回しているWEBサイト制作会社に依頼する場合、WEBサイト制作会社が保護されます。この場合のフリーのカメラマンはアシスタントを雇用しているのでフリーランスではなく、社長一人のWEBサイト制作会社は誰も雇用していないのでフリーランスです。私は誰も雇用していないのでフリーランスとして保護されています。
法律事務所を経営していて、人を雇わないと困ることがあります。人を雇えないと思われることです。
もし事務職員を雇っても仕事は何もありません。
電話は、携帯電話に2回線を引き込み、事務所固定電話からの転送であることをわかるようにしていますが、事務所にかかってきた電話でも知らない番号ならば出ることはほぼありません。経験上、9割以上が営業電話か詐欺電話だからです。
面倒な記帳はクラウド経理サービスにお任せです。AIが判断した勘定科目が正しいことを確認してボタンをポチポチクリックしていくだけです。年に1日だけ、確定申告という、大量の飲食店とタクシーの領収書を心を無にして手入力する日が発生しますが、年に1日だけです。日頃からやれば1日仕事にならないとよく言われますが、1日仕事にしなければ日頃の仕事が発生します。
訴訟はしませんので訴訟資料を整理する作業も発生しません。
平日日中はこちらから企業に往訪しますので、たまにお客様が来ることがあっても土日や夜間の特別対応だけです。その時間にお茶出しをしてもらったとしたら、ブラックな労働環境を疑われてしまいます。
要らないから雇わないのですが、雇えないから雇わないと思われることが一番困ります。
当初は身なりに気を付けようと思っていたのですが、昔はロレックスの70万円を中心に、全身で100万円を超えていた服装も、今は保険会社の会員特典割引で買った2万円のスマートウォッチ、動きやすさを重視した4千円のスラックスなど、全身10万円を超えません。価値のほとんどがジャケットとネクタイですが、ネクタイを締めることも少なくなりました。易きに流れてしまうともう戻れません。私のスタンダードは経済学なので、合理性の追求という言い訳を用意してしまうからです。
せめて、事務所には、一見して高価だとわかる一木彫の麒麟を置いています。首が長い麒麟ではなく、ドラゴンに似ている方の麒麟です。運び込むだけでも引越し業者からロケットの部品を運ぶ特殊部隊が派遣されてくるシロモノです。私が事務職員に求めるのは人を雇えるほどお金を持っているぞアピールなので、木彫りの麒麟が当事務所で事務職員の機能を担ってくれています。そして、事務所に麒麟がいても私はフリーランスです。