中小企業法務という弁護士の業務領域を示す言葉があるらしいのですが、よくわかりません。
まず中小企業の範囲をどのように考えるべきかがわかりません。さらに企業法務という言葉もなおさらわかりません。
中小企業基本法によると、中小企業の定義は、サービス業ならば「資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人」となります。資本金100万円、従業員数は家族を入れて10人、契約書の確認は一切しないという中小企業を想定した場合、弁護士の関与は、取引先がお金を払ってくれない、などの訴訟だけになるでしょう。資本金1000万円、従業員数300人で上場を目指しており専任の法務部員もいるならば、弁護士は、新規事業に関する相談を受けることになります。依頼者の属性によって弁護士に求められるスキルは全く異なり、中小企業という言葉はなんら依頼者の属性を絞り込んでくれません。法務部などお金にならないから重視しない、トラブルにならないと弁護士に相談しない、というやんちゃな大企業もありますから、企業規模と業務領域を結びつける発想がナンセンスに思えます。
企業法務という言葉も不明確です。訴訟法務といっても建物明渡請求や貸金返還請求を企業法務と呼ぶことには違和感があります。しかし、知的財産権の帰属を争うならば企業法務感が出てきます。契約書の添削や新規事業の相談は企業法務でしょう。株主総会対応は企業法務です。M&Aの際のデュー・デリジェンスも文句なしに企業法務です。労働事件は本当に悩ましく、労働者側につけば企業法務ではないのに、同じ事件で企業側につけば企業法務になるというのはものすごく違和感があります。しかし、企業顧問をしているからこそ労働問題を日常的に扱うことになります。私の新人時代のボス弁は、顧問先企業からの依頼しか受けなかったのですが、街弁を自称していました。ボス弁は大規模事務所出身で、企業法務とはチームプレイが必要になるデュー・デリジェンスなどの業務だけを指すのだそうです。弁護士らしい視点だなと思いました。私は上場企業で法務部員をしていましたが、群を抜いて業務量が多いのは契約書の添削でした。そのため、契約書の添削を企業法務から除外するべきではないと考えています。いずれにせよ、企業が依頼者だから企業法務ということには違和感があります。
自分でも意味がわからない言葉を使うべきではないと思いました。