#趣味の話
私はロボットアニメが大好きですが、一番好きなのは初代マクロスです。しかも、評判の悪い、放送延長分が好きです。
初代マクロスは人気があり、当初は半年の放送予定でしたが、急遽2クール予定から3クールに放送延長されました。そのため、2クールをややはみ出た27話までと、付け足した28話以降では作風ががらりと変わります。27話までは王道ロボットアニメ、28話からは昼メロです。私は昼メロを見たことがないので、本当に昼メロかわかりませんが、28話からのドロドロした人間関係に妙なリアリティを感じて、それが大好きなのです。
マクロスは設定をこだわりぬいたアニメです。物語の発端は、ある時、超巨大な宇宙戦艦が地球に落下したことでした。人類は、落下してきた巨大戦艦を調査することで、宇宙では、巨大な宇宙人が、地球をはるかに超えたテクノロジーをもって戦争していることを知りました。
この事実が知られればパニックになりますが、だからといって対策を取らないわけにもいかず、人類は、来るべき巨大宇宙人による高度文明との接触に備えて、地球統合政府を設立し、対巨大宇宙人を想定したロボットを開発しました。このロボットが、主人公メカの量産機バルキリーです。主人公機が試作機ではないことにも製作スタッフのこだわりを感じます。
バルキリーは、地球の技術では戦闘機が最強だが、巨大宇宙人との接触も考えるとロボットに変形できたほうが良い、短距離高速移動を繰り返せる中間形態もあることが望ましい、ということで、3つの形態に変形します。戦争をするだけならば戦闘機が優れている、変形したら強度が落ちる、というのがロボットアニメに対する強烈なアンチテーゼですが、見事に反論しています。
人類も早期に宇宙に出て、宇宙戦闘に耐えられなければならないとして、落ちてきた巨大宇宙戦艦を地球人用に改修して、マクロスという巨大宇宙戦艦にします。このマクロスの設定がまた秀逸です。
実は、落ちてきた巨大宇宙戦艦は、巨大宇宙人による、対立勢力に対するブービートラップでした。敵対勢力が近づいてきたら、主砲が自動発射されるように細工されていたのです。
地球人によるマクロス改修が終わり、進水式ならぬ進宙式が行われているところで、ブービートラップが発動して、マクロスの主砲が巨大宇宙人の艦隊に向けて発射されてしまいます。攻撃を受けた巨大宇宙人は、反撃のために地球に攻め込んできます。マクロスは、改修直後に宇宙戦争に巻き込まれてしまうのでした。
マクロスの原型となる巨大宇宙戦艦には、ワープ装置が搭載されていました。マクロスは、戦闘の中で生き残るために、このワープ装置を発動させざるを得ませんでした。
落下してきた巨大宇宙戦艦を改修するという地球規模での一大事業が行われる中で、その周囲には、自然と街ができていました。マクロスによるワープ装置の発動は、想定していたよりも広い規模を巻き込みました。街ごと宇宙に放り出されてしまったのです。
しかも、ワープ先として月付近を設定したつもりだったのに、冥王星付近まで飛ばされてしまいました。地球の技術では、ワープ装置らしいということしかわからなかったのです。
さらに、ワープ装置は、一度使用したら、機能を失ってしまいました。
マクロスは、ワープに巻き込まれた街の住人を救助して館内に呼び込みました。マクロスはもともとが巨大宇宙人のための戦艦であり、中には広大な空間が広がっています。その中に住人は街を作り直します。超巨大戦艦という舞台装置を、閉鎖された街の人間ドラマに活かす発想はすごいと思います。
地球人はマクロスのすべてを掌握できていません。そのため、当初は、宇宙に出ることだけが想定されていたのですが、戦闘になったことで、ワープ装置を使わざるを得ませんでした。さらに、戦闘の中で、主砲を発射しなければいけなくなったのですが、ワープ装置が機能を失ったことに伴い、エネルギー供給が不足していることがわかりました。やむなく、主砲にエネルギーが供給できるように、マクロスの構造を無理矢理再構成します。その結果、マクロスは、人に近い形になりました。超巨大戦艦が超巨大ロボットに変形するのは主砲にエネルギー供給をするための苦肉の策という設定を前に、私にはマクロスの設定を考えた人の思考回路が理解できず、天才と呼ぶことしかできません。
主人公である一条輝は、進水式を見物に来ていたフリーのパイロットです。軍からスカウトを受けるほどの腕利きですが、腕は良いものの軍人としての覚悟がない理由づけもされています。そしてヒロインは、有名なリン・ミンメイです。今も続く日本アニメ特有の歌うヒロインの初代です。ワープ装置誤作動の際に、主人公とヒロインは2人きりでマクロスの一区画に閉じ込められ、その中で結婚式ごっこをするなど、良い仲になります。
その後、マクロス内で、ミス・マクロスコンテストが開催されます。宇宙人の攻撃を受けながら冥王星付近から地球へと逃げ延びる絶望的な旅の中で、巻き込まれた街の住人の気持ちを盛り上げるための策でした。ミンメイはミス・マクロスに選ばれ、歌手デビューします。娯楽がないマクロスの中で、ミンメイはトップアイドルのような扱いを受けることになります。
物語の途中で、ようやく地球にたどり着いたマクロスは、宇宙人から狙われている厄介者扱いされてしまいます。地球上を逃避行する中で、宇宙人の技術を利用して新開発したバリアを発動させたところ、そのエネルギーが暴走して味方を巻き込む大爆発を起こしてしまい、地球にいられなくなって、再び宇宙へと戻ります。
しかし、マクロスがいない地球も宇宙人に狙われ、全滅してしまいます。地球人で生き残ったのは宇宙に追い出されたマクロスのみという結末です。子供心に、地球が全滅したことが衝撃でした。また、地球人が、対宇宙人を想定して開発した地球に開けた大穴を砲塔に見立てた攻撃兵器によって、宇宙人に一定の打撃を与えている最後っ屁もリアリティを感じました。地球内での戦いでは、地球に穴を掘って砲塔に見立てても打ち上げ花火にしかならず、そんな設定が思い浮かぶマクロスの制作スタッフは私にとって宇宙人です。
巨大宇宙人の正体は、地球人と同一の遺伝子構造を持つ宇宙人です。かつて地球人と同様の大きさ、地球と同様の文化であったものの、戦争に特化した結果、体を巨大化させる装置を開発し、文化を捨てて、男女は隔離されて、戦争ばかりをしています。
巨大宇宙人のマクロス追撃部隊がマクロスに諜報活動を仕掛ける中で、男女が共に暮らしていることや、ミス・マクロスコンテスト、歌、映画などの文化があることを知ります。文化に触れた巨大宇宙人は、遺伝子に刻まれた文化の記憶を呼び起こされて、茫然自失となってしまいます。
巨大宇宙人の組織の中では、文化は危険視されており、文化に触れたものは粛清対象となります。マクロス追撃部隊は、マクロス内の文化に触れたことを理由に、巨大宇宙人の本隊から追われる身となります。その結果、マクロス追撃部隊は立場を変えて、マクロスに同盟を持ち掛け、マクロスとマクロス追撃部隊の連合軍隊対マクロス追撃部隊を粛清するための大軍という対立構造になります。
決戦においては、元マクロス追撃部隊からもたらされた情報によって、歌を利用した作戦が実行されます。戦闘中にミンメイのコンサートを行うことで敵を茫然自失に陥らせ、その隙に、敵中枢を叩くというものです。この攻撃はミンメイ・アタックと呼ばれます。
果たしてマクロスは宇宙人を追い払ったものの、地球は全滅し、私が大好きな昼メロ編が始まります。
ミンメイにはカイフンというイケメンの従兄がいます。カイフンはイケメンですが無職です。従妹で自分を慕っていたリンメイがトップアイドルになったことを見て、そのプロデューサーを自認して登場します。カイフンは無職なので現実を知りません。宇宙人から攻撃を受けて戦争中だというのに、マクロス内で戦争反対を騒ぎ立てる厄介者です。このカイフンは、中途まではミンメイの憧れの人であり主人公の恋敵です。しかし、昼メロになってから転落します。
地球に残った地球人は全滅したものの、マクロスの中で生き残った地球人は復興にわきます。その中でミンメイは飽きられてしまいます。もともと、戦時下のミスコンで祭り上げられただけの一般市民です。ミンメイ・アタックもミンメイの歌に力があるのではなく、文化であれば何でもよい攻撃でした。昼メロ編では、地球の生活になじめない元マクロス追撃部隊の巨大宇宙人がたびたび暴動を起こします。その鎮圧にミンメイ・アタックが使われるのですが、文化を知ってしまった巨大宇宙人に対しては全く効果がありません。
歌手としても対巨大宇宙人文化兵器としてもミンメイは価値を失い、お金に困ります。そして、ミンメイの紐であるカイフン兄さんは、金づるとして機能しなくなった愛人のミンメイにDVを働くようになります。
ミンメイは元彼である主人公の家に逃げ込んで駆け込み女房を狙うのですが、主人公は、戦争の中で、先輩軍人の女性と良い仲になっていました。最終回で、先輩軍人は、主人公の心はミンメイに向いていると考え、宇宙移民計画に志願するといって別れを告げます。そこに、巨大宇宙人による大規模暴動の一報が入ります。主人公は鎮圧に向かうのですが、ミンメイは、そうなれば主人公が先輩軍人の下に去ってしまうと考えて引き留めます。そんなミンメイに対して、主人公は、君には歌があるじゃないか、と言って、先輩軍人を追いかけます。暴動は鎮圧され、行く当てがなくなったミンメイが、歌いながらふらふらとどこかに姿を消して物語は終わります。
マクロスは、昼メロ編をばっさりカットしてリメイクした劇場版が公開され、大ヒットしました。この劇場版は、マクロスの劇中において伝説の歌手ミンメイを題材にして制作された映画、という設定で、劇中劇です。劇中劇ということは、設定上、作中の史実ではありません。しかし、続く作品世界では劇中劇の影響を受けて、ミンメイは美化されて語り継がれています。初代マクロスもまた劇中劇だとされているようですが、ならばもっとミンメイを美化するだろうと思います。
初代マクロスが、ミンメイの歌に力などない、あるのは文化への驚きであり驚きは一度しか通用しない、という設定であることは、あまり知られていません。私は、初代マクロスの、煮詰められた設定、地球全滅という救いようがない結末、クズイケメンに簡単になびくミンメイへの扱いの悪さが、どれも大好きです。