#趣味の話
2025年11月15日
皆さん、ガンダムは好きですか?私はそこそこです。
ガンダムはそこそこですが、ガンダムの監督として有名な富野由悠季御大(∀ガンダムに登場したギム・ギンガナムという濃いキャラクターが御大将と呼ばれていたことから、御大が富野由悠季監督の愛称兼敬称の一つとなっています)の作品群が好きです。富野作品では主要登場人物まで次々と殺されるので、富野御大は皆殺しの富野と呼ばれていますが、魅力はそこではありません。富野作品はほぼ網羅しているのですが、特に印象に残っている作品について語りたいと思います。
無敵超人ザンボット3
ガンダムよりも前の作品になりますが、壮絶の一言です。ドラえもんで有名な故大山のぶ代さんが主人公の声優を務めたことでも有名ですが、大山さんは、ドラえもん以外で思い入れのある作品としてザンボット3を挙げられています。
宇宙海賊ガイゾックによって滅ぼされたビアル星から逃げてきた神(じん)ファミリーが、ガイゾックが地球を狙ってきたので迎撃する、というストーリーなのですが、この手の設定の常で、地球人は、神ファミリーがいるからガイゾックが攻めてきたのだと、神ファミリーを迫害します。
それでも神ファミリーは、第二の故郷である地球のために戦うのですが、戦い方が酷い。ロボットのパイロットに求められるのは反射神経で、若いほうが向いているということで、主人公ら子どもたちは密かに睡眠学習によってパイロットとして養成されていました。ここまでは子供に玩具を売るためのよくある設定ですが、ここからが御大なんです。
子どもたちにだけ命をかけさせるわけにはいかないと、大人たちは、子どもたちがピンチになると、次々と鈍重な戦艦で敵に特攻をしかけ、年長者から戦死していきます。一族で順繰り若者に後を託した結果、最年少の主人公だけが生き残るという結末でした。
また、人間爆弾という恐ろしいエピソードが有名です。地球人がガイゾックにさらわれ、体内に爆弾をしかけられたうえで、それとわかるように背中に星型のアザを刻まれて、解放されるのです。さらわれた人間が帰ってきたという歓喜の中での周囲を巻き込んでの爆発、そのうちに、爆弾をしかけられた人間にはアザがあることが周知されていきます。その結果、人間爆弾にされた人たちは、周囲を巻き込まないように人里を離れていくのです。その際に、状況を飲み込めない子供は親元に帰ろうとするのですが、大人たちが無理やり連れていきます。また、ヒロインであるはずの主人公のガールフレンドは、主人公が保護して母艦に乗せるのですが、母艦の中で爆死してしまいます。どこにも救いがありません。ただ虐殺するだけではないガイゾックの恐ろしさが際立つエピソードでした。
子供向けアニメで一体何を描いているのでしょうか。誰に見てもらう、ではなく、何を伝えたい、が先立つのが富野御大なのだと思います。
聖戦士ダンバイン
私がマクロスと同じくらい好きな作品です。ダンバインが好きというよりも、バイストン・ウェル・サーガの世界観が大好きです。
巨大昆虫が登場するナウシカ的なファンタジー世界に、現代の科学力が持ち込まれ、昆虫を思わせる生物的なフォルムのロボットが活躍する。小さく羽が生えた妖精たちも出てくる。トッド・ギネスならずとも、良い夢みさせてもらったせ、という世界です。ファンタジーとSFの融合としての完成度はかなりのものだと思います。
しかしダンバインはほんとにひどい。登場人物のほとんどが恋愛脳です。主人公ショウからしてヒロインであるマーベルのビジュアルに惹かれて反乱軍に参加します。マーベルもイケメン設定のニーにつられて反乱軍におり、ニーはリムルとロミオとジュリエットごっこがしたいだけ。リムルの父であるドレイクは作中最大の悪役ながらも、上昇志向が強いだけの傑物です。ドレイクの妻でありリムルの母であるルーザは、ビショットという小物と密通してドライクの命を狙っています。すべての元凶とも言えるオーラバトラーというロボットを開発した天才科学者ショットは、パイロットであるミュージィと相思相愛で、いずれはドレイクになりかわろうとしています。登場人物が次々と命を落としていきますが、感動的ということはまったくなく、恋愛脳に殉じて良かったですね、という感想しか浮かびません。
富野作品はガンダムに代表されるように思想の対立が根底にあることが多いのですが、ダンバインの登場人物は誰もが自分勝手に動いており、異色です。唯一、シーラだけは徹頭徹尾理想の女王を演じきっています。ドレイクとシーラという思想的な柱がいなければ、この作品はどうなってしまっていたのでしょう。
機動戦士Ζガンダム
1979年生まれの私は、同年放送開始の初代ガンダムを見るよりも先にΖガンダムを見て育ったΖ(ゼータ)世代です。
皆殺しの富野は最終決戦で一気に殺すパターンも多いのですが、Ζガンダムはコンスタントに主要登場人物が命を落としていきます。だから作品全体が暗い雰囲気に包まれています。そのくせ、モビルスーツのデザインが最高に格好いい。雰囲気と格好良さを楽しむ作品だと思っていました。
しかし、大学時代に見直したら、狂犬の如き主人公カミーユが、不幸の末に壊れていく台詞回しが怖くなりました。お前、あんな激情家だったのにフォウが死んでも取り乱さないのかよ、かと思ったらハマーンに対するあたりがきつすぎるよ、ロザミアが死んだときの悟り方は怖いよ、で、あのラストだよ。突然イタコになったわけではなく、あまりにも多くの死と向き合う中で、生死の境が曖昧になってしまったのでしょう。感受性が高すぎるカミーユが戦争の中で順調に壊れていく物語です。
御大はガンダム以外の作品も数多く手掛けているのにスポンサーからはガンダムしか求められず、仕方なく作ったガンダムの続編に、ガンダム以外を認めない世間への恨みをぶつけた、ということがよくわかります。
主人公カミーユ役の飛田展男さんは、オーディションで、ガンダムはあんな良い終わり方をしたのに、何で続編なんか作る必要があるんですか?という、御大の琴線に触れるリアルカミーユ発言をしたそうで、もうこの時点で怨念のこもった作品になることは約束されていたのでしょう。
とても人にすすめられる作品ではありませんが、人の怨念を感じたいならばΖです。
機動戦士ガンダムΖΖ
ハマーン様のコスプレが拝めるのはΖΖだけ。
序盤のコメディ路線は擁護できませんが、リィナが死んだと思ってジュドーが覚悟を決めたあたりからは王道アニメとして完成していると思います。
ジュドーという非の打ち所がないヒーローに、ハマーンという魅力的な悪役、脇役たちもビーチャやモンドの成長や強化しすぎたマシュマーやキャラの壊れ具合など飽きさせません。ヒロインたちのビジュアルも現代でも通用します。ぽっと出ボスで魅力のないグレミーも、ハマーンってザビ家そのものではないやん、というストーリー上の疑問に答える存在として、私は納得できます。
Ζで毒を吐ききって、無理に明るくしようという気力も序盤で使い切って、良い感じに出がらしになったら王道が残ったのだと思います。
機動戦士Vガンダム
異様に達観した少年の主人公ウッソを襲う悲劇の連続、容赦なく殺されるためだけに登場する華やかな女性パイロットたち、御大は当時うつ病だったそうで、でしょうね、という感想しか残りません。もし私が作中世界にいたら、ウッソがあまりにも不憫で、全力で守ると思います。
ブレンパワード
裸の女性キャラクターたちが画面を飛び回るオープニングが有名ですが、「女が母になる事をやめて、男もそれを許したんだ」というセリフが作品の全てです。
家族愛と男女のあり方をテーマにした作品で、結局オルファンとはなんだったのかよくわからないのですが、御大には色々と思うところがあるのだなとだけはわかりました。
∀ガンダム
世界名作劇場のノリですが、ストーリーが終盤に向けて盛り上がっていって、モビルスーツ戦も人間ドラマもしっかり描かれていて、普通に御大の最高傑作だと思います。
富野作品に共通する最大の美点である、登場人物が誰も彼も考えて動いていることもきちんと踏襲されています。泣き虫ポゥのようなうっかりさんはいても、他者の作品のように、物語を動かすためだけの不合理な行動がないことが素晴らしいです。
富野作品の集大成であり、黒歴史という設定で、やけに牧歌的な世界観と凶悪な兵器群を包括している発想もすごい。
スケールが大きく歯車が噛み合った壮大なストーリーで、ツッコミどころといえば主人公が女装させられるところくらいですが、似合っているから良し。むしろ朴璐美さんの中性的な魅力を引き出しています。ブレンパワードの白鳥哲さんも朴璐美さんも御大がこの時期に見出した当時の新人声優で、いずれも魅力的なので、さすが声優選びに定評のある御大だと思いました。
普通に、御大の作品のくせに普通に最高傑作でいられるのは、同時期に制作されたブレンパワードで毒っぽいものを吐き出したからなのだと思います。ΖΖの後半といい、∀といい、色々吐き出した後の出がらし御大は普通に良い作品を作ってくれます。確かな力量はあるが色々と濃度が高すぎるのが御大なのだと思います。
キングゲイナー
うつ病が治って良かったね。躁というには怒りがないので、きっと治ったのでしょう。なんとも形容しがたい、青春だなあ、という作品です。
WOWOWの中の人はすべてをわかって御大に委ねているようで、販促ポスターは御大のご尊顔のアップでした。
こうして振り返ると、富野御大とはなにか、という基礎知識がなければ人にすすめにくい作品ばかりです。ヒット作が多数あっても、少数の人間がコンプしているから数が回るのであって、一般受けはしないなと改めて思いました。∀だって、素晴らしい作品ですが、普通なので、すすめにくいです。強いてすすめるならザンボット3かな。壮絶ですが、自分が神ファミリーの一員ならば同じ行動をするという共感はできます。それをしたくないので平和が一番だと思えます。