2025年9月11日
私は多趣味なのですが、こだわりはありません。
以前、テレビで、多趣味で知られているからこだわりが強そうだと言われた春風亭昇太師匠が、こだわりがないから多趣味なんだ、こだわりがあれば何かに没頭して趣味の数は限られるんだ、ということを話されていて深く納得しました。
法務部員に求められるのはなんでも学ぶことです。最近、それを実感する仕事がありました。
私のクライアントは版権物の乙女ゲームをリリース予定のパブリッシャーで、同乙女ゲームの開発を下請けとなるデベロッパーに委託することになりました。クライアントの法務部長はとても優秀な方なので、乙女ゲームの特徴を理解されており、開発委託契約書には、しっかりと、契約上は第三者である版権元の監修を受けながら開発するんやで、という条項を書きこんでくれていました。私が法務部員に求めているのはこういう気の利いた条項を書き込むことです。裁判管轄とか二の次なのです。
版権物の乙女ゲームのファン層は、乙女ゲームに登場するイケメンたちの熱心なファンです。その特徴は、ビジュアルだけでなく、このイケメンAはこういうキャラクターをしており、イケメンBはこういうキャラクターなので、ぜんぜん違う、というこだわりが強いことです。うむ。何事にもこだわりがない私とは真逆の人種ですな。「飛影はそんな事言わない」で検索していただければ、どういう感じかご理解いただけると思います。
いくらこのゲームは原作とは別の世界での出来事ですと説明しても、慎重に既成のキャラクターを踏襲しないと、イケメンAはそんな事言わないと言われてしまうのです。これを防ぐことは困難ですが、炎上の確率を下げるとともに、炎上時の被害を食い止めるためにも、版権元を巻き込む必要があります。優秀な法務部員は、事案に応じて必要となる条項をしっかり書き加えるのです。
問題は、優秀な法務部員は滅多にいないということです。やれ法律上問題があるだのくっそくだらん話ばかりしよって、適法にするための最小限の修正を見極めるのが法務の仕事やろうが。問題点の指摘に留まるなど論外、問題点を修正できて最低限、さらにビジネスの特徴を掴んでリスク回避を仕込めるから優秀なんや。最低限に至らない役立たずばかりだから法務部員は役員になれないと言われてしまうのです。
法務部員として優れた仕事をする下地は、雑多な知識です。乙女ゲームの開発委託か。どんなゲームだろうか。どんなファン層だろうか。そんなことをしっかり調べてから契約書に向き合うことが求められます。私は何でも屋ですから、来た仕事全部調べる、でやっております。クライアントから、業界のことをよくご存知なので助かります、とよく言われますが、違うんだ、仕事のために詳しくなったんだ、詳しくないことでも無理矢理詳しくなることが私の売りなんだ。根性と調査スキルで飯を食っとるんだ。長年付け焼き刃を続けていると、どこかで学んだ知識が役立つことばかりで、世界はシームレスなのだから人間の身勝手なカテゴライズに縛られる必要はないと熟思います。昔の偉い人たちが若者は新聞を読めと教えていたのは、広くアンテナを張れという意味なのです。
法務部員には何にでも関心を持つことが必要なのですが、人間の興味には限りがあるらしく、こだわりが強いと特定分野にしか関心が向かず、こだわりが無い方が良いのではないかとふと思いました。そして、法律にこだわりがある人間は法務部員に向いていないという残酷な事実まで見えてきてしまいました。