#法律の話
2026年1月22日
ある取引先から、個人情報についてのご質問を受けました。
「顧客や取引先の氏名をググったら個人情報の第三者提供になるの?」
「インターネット上で公開されている情報を顧客管理リストに追記しても良いの?」
実に鋭い質問であり、私の取引先が自発的に研鑽を積まれていることを大変喜ばしく心強く思います。
思わず雅な言葉遣いが出てしまうくらい感動しています。こういう日常的に行っていることが実は法律違反ではないのかという疑問は、コンプライアンスが定着した証拠です。
忘れないうちに答え合わせです。
Q:「顧客や取引先の氏名をググったら個人情報の第三者提供になるの?」
A:原則としてならないと考えられています。
∵この質問は大変鋭く、純理論的に考えれば、なる、すなわちアウトとなるはずです。
しかし、実務を後追いした解釈として、ググるための氏名の入力行為に提供意図はなく、むしろ情報入手のための手段なのだから「提供」にはあたらないと考えることが通説です。
もっとも、例えば履歴書を食べさせると、そこからワードを抽出してググって、検索結果をまとめて履歴書にコメントを添えてくれる、というようなツールを使う場合で、当該ツールに食べさせた履歴書を当該ツールの提供業者が利用できるというならば、当該提供業者への提供となります。
Q:「インターネット上で公開されている情報を顧客管理リストに追記しても良いの?」
A:個人情報保護方針などによって公表している利用目的の範囲内であるならば構いません。
∵個人情報保護法上、公知であるか否かは、個人情報該当性に影響を与えません。そのため、インターネット上で公開されている情報も個人情報に該当し得ます。
とはいえ、個人情報の取得について、個人情報保護法は、
「(適正な取得)
第二十条 個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。」
とするのみです。インターネット上で公開されている情報ならば、「偽りその他不正の手段」による取得にはあたりません。
そこで、他の個人情報と同様に、公表している利用目的の範囲内で利用できる、ということになります。
今日のメインテーマは個人情報保護法ではなくコンプライアンスです。既に答えは書きましたが、私が考えるコンプライアンスとは、このような質問が自然に出てくる状態です。
これを実現するには「それはあかんで。これこれこういう法律があってな。違反するとこうなってしまうんや。」という説明を延々と繰り返す必要があります。
しかも、それだけでは足りません。「あれもいかんこれもいかんでなんもできんと困るやろ。そんなときはこうしたらええで。」という解決策の提示もして「違法ならば合法にすれば良い。それで後顧の憂いなくビジネスができる。」という疑問を口にすることへの安心感の提供も必要です。安心感の提供を怠ると「法律を守っていたらビジネスができない。積極的に法的リスクを取らなければならず、赤信号みんなで渡れば怖くない。」となってしまいかねないからです。
契約書の添削依頼とともに、このような質問を日常的に受けられるようになると、コンプライアンスの定着を喜ぶとともに私の商売も安泰なので、とても嬉しいですね。大切なことなので何度でも言いますが、こう見えておっちゃんもお仕事しとるんやで。
やれ結婚できない、やれ会務がしんどい、やれ弁護士業界の未来が、などとネガティブな情報ばかり垂れ流していますが、たまにはポジティブな日常も発信していきたいと思います。
2026年2月26日
Q:「顧客や取引先の氏名をググったら個人情報の第三者提供になるの?」
に関連して、オンプレミスのLLM内で検索クエリを自動生成、それを外部検索ツールに放り込んで出力をRAGとして活用、検索クエリは外部検索ツールに保存される(ゼロデータリテンションがない)、ことについてのリーガルチェック(検索クエリ生成のレギュレーション作成)の仕事が入ってきました。
このQに対する答えが、「A:原則としてならないと考えられています。」であると固定するならば、外部検索ツールに放り込む検索クエリに制限をかけずともよさそうです。
しかしとても気持ち悪い。大変に気持ち悪くてもう吐きそう。
仕事をしていると吐きそうになることが多いです。人間の危機察知能力は、生命身体に対するものにだけ発揮されるわけではないことが実感できます。人間って優秀な生き物だなと思います。
そういうわけで、吐き気に後押しされて色々な論説を漁っていたのですが、手動検索を黙認する理由として、人間ならば無意識にフィルタリングを行っている、例えば、プロフィールの文字列をそのまま検索サイトに放り込むことはせずに、キーワードだけを抽出しているに過ぎない、というのは説得力を感じました。なるほど、「柿沼 弁護士 千葉県」と入力した場合、千葉県に柿沼という弁護士はいるか探しているに過ぎない、という考え方ができます。しかし、「千葉県在住の柿沼弁護士」となると、ガッツリ私のことです。前者は情報収集の手段であり提供ではない、後者は提供、として整理することに説得力があります。これって、検索クエリ生成のレギュレーションづくりの強力なヒントになります。こういうヒント集めと体系的整理が私のお仕事であり、数理モデリング出身の弁護士である私に求められている仕事です。
このサイトは教育事業のネタ整理も兼ねているのですが、自分の仕事を言語化すると、結構ちゃんと働いてるじゃん、と勇気づけられます。ゆるゆるしながらも食いっぱぐれていない現状に漠然とした不安を抱えているのですが、それが解消されます。現時点で、このサイトの一番の成果は、セルフエンカレッジです。自分でも自分の職業を説明できないことが周囲からの謎のおじさんという認識を招いているのですが、サイト更新を通じて謎のおじさんを卒業できる気がしてきました。私は何しているかわからないおじさんではなく手広く仕事をしているおじさんなのです。稼働時間が際立って短い割に、結構色々納品しているよな。自分の作業効率の高さに驚きです。