2025年10月18日
弁護士業界には多重会務者という言葉の響きからして闇のオーラに包まれている人種が存在しています。言葉の通り、会務が重なってその負担に苦しんでいるかわいそうな人です。
多重会務者の比率は単位会(地方裁判所に対応して設置される東京弁護士会とか千葉県弁護士会とかのことです)によって大きく異なります。2025年10月1日現在、最大の単位会である東京弁護士会は会員数9,450人であるのに対して最小の函館弁護士会は51人です。にもかかわらず、弁護士会としては同等の機能(特に重要なのは懲戒制度や倫理研修制度などの弁護士自治の中核をなす機能です)を備えなければならないので、小さな弁護士会ほど多重会務者の比率が高くなります。
私は最大の単位会である東京弁護士会に所属しています。にもかかわらず多重会務者です。ふざけんな。
スタートがいけないのです。私は新人時代を兵庫県弁護士会で過ごし、当然のように多重会務者でした。その後、東京に移ったのですが、東京は人数が多いのだから一人あたりの負担は小さいはず、という思い込みと、皆が働いているのに自分だけ働かないなど気持ちが悪いという倫理観から、簡単な作業(司法試験後に配布するアンケートの袋詰めでした)に手を挙げてしまったのです。年に数時間で済むなら楽なものじゃない、という軽いノリでした。
ところが、100人くらいいる委員会であるにもかかわらず、作業に参加するのは10人くらいです。10人もいれば人手は足りるのですが、何をなすにもこの10人くらいで回します。
委員会だけならば良いのです。私は会派の構成員ですから、そちらの仕事も大量に発生します。勉強会やろうぜ、研修旅行しようぜ、飲みに行くだけだと格好がつかないから飲みに行く前にそれっぽいことしようぜ、という準備が発生するからです。
私は、●●会系2次団体▲▲会(東京弁護士会系の3次団体とも言えます)に所属しており、●●会内には若手(といっても15年目まで)のみで構成される■■会が存在しています。去年の私は▲▲会事務局長、今年の私は●●会事務次長兼■■会会務政策委員長です。どうみても闇の勢力です。本当にありがとうございました。
さらに、最近知ったのですが、会派には人出しという恐ろしい機能があるのです。
会派について語るには、大規模会特有の事情について説明する必要があります。
私が新人時代に所属していた兵庫県弁護士会は、当時、本庁(地方裁判所に支部がある場合、支部に応じて弁護士会にも支部が設置されます)の会員数が400人を超えたくらいでした。毎年の増員のみの顔を覚えていけば全員の顔を覚えられるというシステムがまさに限界を迎えようとしている時期でしたが、新人である私が弁護士会館に行くと、役員や職員の方々が、柿沼先生と声をかけてくれました。おっかない先輩もたくさんいて、「柿沼先生、新人は何事も勉強だよ、わかっているよね」と脅されて、押忍の精神で、法律相談や当番弁護の名簿に登録させられていました。ムラ社会である小規模会では、こんな感じで、ほぼ全員が多重会務者に沈められます。
ところが大規模会になると、誰も新人の顔を把握していません。顔を把握していることを前提に初動で脅して沼に沈めるという我々の業界の伝統的手法が採れないのです。日本人特効の「みんなやっているよ」も使えません。その結果、放っておくと誰も会務をしないという恐ろしい状況になってしまいます。
ただ、弁護士は私のような寂しがり屋が多いので、会派が活発です。「会派に所属するとどうなるんですか?」「先輩のお金で酒が飲めるぜウェーイ!」なので、若者のなんとか離れシリーズに会派離れが加わっているにもかかわらず、若者の絶対数の多さから会派は今でも元気です、ウェーイ!
私は東京弁護士会のことしか知りませんが、東京弁護士会は会派を巧みに利用しており、生贄が必要になると、では、●●会からは何人出してください、という徴収指示が出されます。私は中間管理職なので「やあやあなんとか先生、そういうわけで、何々に就任してください。まあまあ悪いことは言わないからトラストミー」と言って人さらいに励むこともあります。私が伝統的手法の継承者でいられるのは、あの人いつもひどい目にあっているよね、と周知されるくらい汗をかいているからです。
人出しをするようになると難しさがわかります。近い内にどんな要請が来るはずだから誰は温存しておこう、誰は今のうちから訓練されたソルジャーに育てよう、などと計画性が求められます。なんでボランティアに計画性があるんですかね、それがわからない。
わからないことだらけなのですが、とにかく私は多重会務者なのでとても忙しいのです。さあ、今月中に予算要求書と理由説明書と相談会企画書と勉強会企画書と意見照会回答書2通と原稿のゲラ修正3冊分をやっつけるぞ、と。いつ働いているのだろうか。こんなんだから週に30時間未満しかお金を稼ぐ時間が捻出できないのです。