どこかの弁護士の方が、弁護士の能力を事務処理能力と仕事獲得能力に分類して、20代では前者の不足が問題となり、30代でバランスし、40代で前者が衰え始め後者が伸びた結果、人を雇わなければ事務所が回らなくなる、と書いているコラムを拝読しました。うろ覚えなので用語は微妙に間違っているかも知れませんが、趣旨は合っているはずです。
なるほど、このサイトで真っ先に書いたコラムと同じ問題意識だと思いました。やっぱりそうだよね。
これは、古式ゆかしい民事紛争解決型弁護士の一生ですが、私のような何でも屋にも通じる評価軸です。ただし、私に適用する場合には、評価方法が全く異なるものになります。
直接私に来た依頼ではないのですが、時給2万円で1日7時間の研修講師を毎月何回か受けてほしいという話がありました。1日で14万円の売上を毎月何回も得られるのですから、一見美味しそうです。しかし、私に話が回ってくれば、勘弁してくれと思います。
研修のテキストを作るには時間がかかります。すでにテキストが用意されている塾講師とは話が違うのです。
弁護士ならば、ほとんどのテーマで、準備なく30分や1時間の研修ができます。しかし、3時間話すためにはそれなりに詳しい必要があります。7時間ともなれば、最新の裁判例や法改正の議論状況なども掘り下げなければ間が保ちません。その調査には3倍の21時間は優にかかります。時給を計算し直すと5,000円を下回ります。経費が発生することを考えると、名前を売りたい若手以外が受注することはないでしょう。
毎月何回か、というのが非常に気になります。同じ内容の焼き増しで良いならば、喜んで受けます。仮に3回同じ内容を繰り返すとなれば、21時間準備して21時間講演すれば実質時給は1万円となり、かなり受注ハードルは下がります。翌月、翌々月も焼き増し可能となれば、段々と魅力的な仕事になっていきます。定期収入でリスクがないのですから、焼き増し商法ができるならば研修講師は大変魅力的です。しかし、月に3回新作を用意し続けろとなれば、誰が受けるんだこんな仕事となります。
研修講師の例を踏まえて考えると、事務処理能力というのは、その分野への慣れや、手持ち素材で対応できるかどうか、という問題になります。受注分野を絞って専門家になれば楽な準備ができる、それをもって事務処理能力が高いと評価できるのです。その意味で、何でも屋の私は事務処理能力において大いに劣後します。都度調査しなければならないからです。
しかし、何でも屋は使い勝手が良く、仕事獲得能力においては優位になります。私が集客しなくとも食べていけるのは、仕事獲得能力に優れているからという評価もできるのです。感覚的には、私は事務処理能力に優れているから何でも対応するし、集客をしないし耳障りの良い専門家も名乗らないのだから仕事獲得能力が無いと思ってきましたが、事務処理能力と仕事獲得能力という分類は奥が深いと思いました。とても鋭い分析なので、どこで読んだコラムか忘れてしまったことが惜しいです。
もっとも、私のような何でも屋は、常に新しい経験が蓄積されていきますし、新技術への対応を含めれば事務処理能力は天井なしで伸びていきます。私は46歳になっても日々成長を実感できています。専門家になれという流行りの選択の合理性を認めつつも、私の戦略もそれはそれで間違っていないと自負しています。
同時に考えさせられたのは、今はITが人を代替するということです。私がコラムに感銘を受けたのは、事務処理能力と仕事獲得能力を個人単位ではなく事務所単位で考えていることです。ITサービスは私から毎月5万円を吸い上げており、それが常に役立つとは限りません。しかし、たまに火を吹けば軽く数十万円分の働きをしますから、普段は遊ばせておいても惜しくありません。月に20万円以上かかる事務職員が遊んでいれば私は活火山になりますが、ITサービスにならばおおらかな気持ちでいられます。私は体だけでなく心も小さな男なのです。チーバ県民なので富津岬も大人しいです。ITサービスは、経理はもちろん、法律相談の簡易な説明案を作成してくれますし、英文も瞬時に和訳してくれます。現代では、人を雇う代わりに必要なITサービスを選んで課金することも事務処理能力向上策となります。独立当初は一人だと大変でしょとよく言われていましたが、今は私のような完全一人事務所が珍しくありません。
もちろん現代においてもマンパワーは事務所の事務処理能力の一部です。私も、何でも屋でも良いと思ってくれる若い子を採ろうか考えたことがあるのですが、守備範囲が広ければ使い物になるまでに時間がかかるため、私があらゆる仕事でサポートを強いられる未来しか見えず、断念しています。「部下を育てるっていうのは子供を育てるつもりでなければいけないよ。手塩にかけて育てても出ていかれてしまい、それでもどこかで頑張ってくれていればいいと思える愛情が必要だよ。」と諭されたのですが、そんな愛情があれば今頃結婚できとるわい。