2026年1月27日
先日、新卒採用が加熱化することを景気判断の一材料としました。
私は2001年大学卒で就職氷河期真っ最中でした。名だたる大企業が揃って新卒採用を見合わせており、友人たちは苦戦以前に、戦うことすら許されないという苦境に追いやられていました。もっとも、私は大学院に進学すると決めていたので、就職活動はしていませんし、学部が開催した就活用研究発表会で名指しスカウトを受けていました。
私が司法修習を受けていた2009年から2010年は、弁護士就職氷河期が始まったと言われていました。もっとも、私個人は、修習が始まってすぐにいくつかスカウトをもらって、選ぶ立場でした。
私は就職氷河期を経験していないと評価すべきか、就職氷河期だろうが決まるやつは決まると評価すべきかは、当人にとってはどうでも良いことなのですが、新卒採用から景気が判断されるというのは、私だけの考え方ではありません。
弁護士の景気も回復しており、新卒採用が活発化しています。
そんな好景気の波から取り残されているのが、我々一人事務所です。新卒の待遇が景気を反映するならば、新卒を取らない我々の景気はゼロ、無です。私も、好況を感じつつも売上はピクリとも動かないことは先日お伝えしました。
そんなわけで、大規模事務所だけが好景気の恩恵を受けていると言われています。
なんでもAIにこじつけられる昨今です。私にとってはAIは大昔から日常なので、正直もううんざりです。
日弁連における新しいテーマは「大規模事務所はAIを活用してますます潤い、一人事務所は取り残される」という危機感だそうです。パリ弁護士会は、実際に、約2億円の予算を投じて、弁護士2人以下の事務所に対してAIサービスを提供しています。
いやいやいやいや。
今やAIは安価に提供されているよ。
一人事務所でぬくぬくしている私は今日もAIを使って契約書添削を省力化したよ。
①利用するAIサービスの選定
私は利用規約とプライバシーポリシーをチェックして、入出力情報を学習以外にも利用されることがないAIを選んで契約しています。
②AIへの入力
選び抜いたAIに相手方から出てきた契約書ドラフトを食べさせます。
③AIからの出力
AIによる推論は、考えているわけではなく、確率的にそれっぽいものを作り出しているに過ぎません。その結果、なんかいろいろ問題点を挙げてくれましたが、その中には、今回の事例には妥当しないものが数多くありました。私はこれらをオミットして、ある程度問題点を把握しました。
④契約書目視レビュー
ある程度の問題点を把握したうえで契約書ドラフトを目視チェックすると、AIが触れていない問題点が抽出されました。AIによる推論は学習に基づくので、類似事例が頻発する箇所は得意ですが、事案に応じた個別判断は苦手です。
⑤AIへのドラフト指示
私は、AIが指摘した問題点の中から私が厳選したものと、私が目視チェックして抽出した問題点を、AIに入力して、それらの問題の修正案の作成を命じました。この際には私好みの修正案になるようなプロンプトエンジニアリングのスキルが求められます。
⑥AIからのドラフト出力
AIは、私が目視で抽出した問題点について「鋭い指摘です。それはとても重要です。」などと言いながら、ほんの少し手直しすれば実戦に耐える修正案を作成してくれました。
⑦微調整と納品
すでに私好みの修正案は得ていますから、表記ゆれ等を微調整するのみで完成し、納品できる状態になりました。
目視ならば3時間は見ておきたい作業を、AIを利用することで、45分程度に圧縮できました。
この作業において私に要求された能力は3つあります。
AIの特性を理解してAIが内包する法的・技術的限界を把握すること
AIよりも高度な法律実務(今回は契約書添削)スキル
AIの出力を自分好みに誘導できるプロンプトエンジニアリング
これらが揃って初めてAIを使いこなすことができます。
AIを使うには人手も高いお金も不要です。それって格差を広げますか?というのが私の答え。
しかしながら、日弁連が危機感を抱くに足る事実が観測されています。大手事務所に勤務する弁護士は、類型的に、新技術に柔軟に対応できる器用さを備えているからです。就職氷河期のエピソードを前フリに持ってきたのは、AIの議論となんら構造が変わらないからです。生き残れるやつは大規模事務所だろうが一人事務所だろうが生き残れる。
とはいえ、実際にAIによって弁護士の格差が拡大していますし、それは加速していきます。避けられないことです。だから日弁連のテーマ設定は正しいし鋭い。
しかし、私は、どうせAIを使いこなせない弁護士のためだけに2億円が浪費されたであろうパリ弁護士会の悲劇が日弁連において繰り返されることを懸念しています。自分でお金を払わないサブスクが活用されるわけがありません。ライザップが流行るのも、私が月額27,500円のゴルフ練習をしているのも、高いお金を払っているのに使わなければもったいないと自分を追い込むためです。かといって、弁護士全員に高額なAIサービスへの加入を義務付けることは、私が断固拒否します。
解決策はたった一つで、弁護士に対する教育です。ただし、教育とは、教える側にとっては、自ら勝ち得た競争優位を手放すことにつながります。私がちょろちょろと実は結構役に立つ技術を開示しているのも、知り合いしか見ないサイトなら知り合いが喜んでくれればよいかと思えるからです。
そもそも、格差の拡大は悪いことなのかという疑問があります。hired gunであることは弁護士の本質の一部です。ルールに則った決闘の代理人であり、遵法精神や倫理観が求められるものの、勝つことが仕事です。
レモンの市場とならないように粗悪品を市場から締め出すことが求められることは理解できます。その手段は底上げであるべきなのか退場圧力であるべきなのか。両者は択一関係にはないので、底上げの機会を提供しつつもそれを活かせないならば退場願うというのも手段です。
会派という沼に沈められると、自然と業界の未来とか考えてしまうようになるんだね。暇を持て余した有閑貴族はルネッサンスをもたらしたというのに暇を持て余した独身貴族はネガティブな思考に陥るんだね。鬱だ氏のう。ポジティブが遠く、これが根暗ということなのだと理解しました。